公開日:2024.01.05

(最終更新日:2024.01.05)

給与計算アウトソーシングを導入するべき中小企業とは?内製化との違いやメリットを解説

給与計算業務のアウトソーシング導入を検討する中小企業は少なくありません。

人材確保が難しい、人事担当者が他業務と兼務しているなど、給与計算に関して課題のある中小企業が多いためです。

従業員数などによって条件が異なるため、給与計算を内製化するか代行に任せるか、お悩みの企業もあるでしょう。

そこで、この記事では給与計算アウトソーシングを中小企業が導入するメリットや注意点を解説するとともに、給与計算の内製化とアウトソーシングを比較するポイントも紹介します。

給与計算アウトソーシング

1中小企業が抱える給与計算の問題点

中小企業が抱える給与計算の問題点は、下記のとおりです。

  1. 給与計算担当のスキルが不足している
  2. 給与計算担当の負担が大きい
  3. 電子化が進んでいない
  4. 自社のセキュリティ対策が十分ではない
  5. 経営者自身が給与計算を実施している
給与計算アウトソーシング

1-1.給与計算担当のスキルが不足している

給与計算を担当する従業員が、社会保険や税務に関する専門知識を持たない企業は多くあります。
給与計算業務は特定の資格が必要な業務ではない上に、中小企業の場合、従業員数の不足から、経理担当者や経営者が兼務しているケースがあるためです。
給与計算担当者のスキルが不足していると、以下のような問題が懸念されます。

  • 法改正に迅速に対応できない
  • 給与計算ミスが発生する
  • 手続きに時間がかかる

担当者の経験不足、知識不足などによって、ミスの対処や処理の遅れなどが発生し、給与計算業務に余計な時間と経費がかかっている中小企業も少なくありません。

1-2.給与計算担当の負担が大きい

中小企業では、給与計算担当者の負担が大きくなりがちというのも、中小企業が抱える問題の一つです。
企業規模が小さいことや、従業員の不足から、給与計算を担当している人事が労務も兼務するなど、本来の職務以外の職務をかけ持ちしている場合があるためです。

年末調整の時期など、繁忙期には複数の業務を行っていると手が回らないケースも考えられます。さらに、給与計算担当者は従業員からの問い合わせを受けることも多く、そのため他の業務が進まなくなる場合もあります。
このように、中小企業では給与計算担当の負担が過大になりがちです。

1-3.電子化が進んでいない

給与計算業務の電子化が進んでいない中小企業は、コストや作業効率の面で課題を抱えがちです。

タイムカードのデータを手入力したり、印刷を伴う方法で給与計算業務を行ったり、電子化されていない手段で給与計算業務を行うと、業務が煩雑になり、余計な時間がかかるためです。
電子化が進まない要因には、一度始めた方法を変更するには労力がかかるため、昔から使用されてきた紙ベースの業務方法を継続していることなどがあります。
給与明細書をPDFで発行したり、勤怠をシステムで管理したりするなど、電子化を進めることで、作業を効率化し、コストを削減できる可能性があります。

1-4.自社のセキュリティ対策が十分ではない

情報セキュリティ対策が不十分というのも、多くの中小企業が抱えている問題点です。
独立行政法人情報処理推進機構が実施した2021年の調査によると、情報セキュリティ対策の実施状況は2016年に比べて改善している傾向にあるものの、セキュリティ関連製品やサービスの導入については2016年と大きな差はありません。

セキュリティ投資を実施していない理由としては、以下のような内容が考えられます。

  • コストがかかり過ぎる
  • 必要性が感じられない

専門業者が提供する情報セキュリティサービスは、これまでセキュリティ投資を実施していない企業からするとかなり高額に感じられ、導入のハードルが高いという問題があります。
しかし、セキュリティ対策を怠ると情報漏洩などの深刻な問題を引き起こす可能性があり、気づかないうちに危険な状況に陥ることがあるため、セキュリティ対策は極めて重要です。

1-5.経営者自身が給与計算を実施している

中小企業が抱えがちな問題点として、給与計算を企業経営者が自ら実施しているというものもあります。

単純に従業員が不足しているケースや、企業年数が浅い場合、従業員数がある程度増えても、経営者が給与計算を行う体制を継続していることが多々あります。

また、経営者や役員、他の従業員の給与を従業員に知られたくないという理由から、そもそも従業員に給与計算を任せない中小企業もあります。

給与計算を経営者が自ら担っていることで、給与計算業務に時間をとられ、経営者が本来の経営業務に集中できない場合があります。

2給与計算アウトソーシングを導入するべき中小企業

下記のような企業の場合は、アウトソーシングを導入するとメリットがあると考えられます。

  1. 担当者の急な退職や休職による業務停止のリスクがある
  2. 給与計算業務関連のコスト削減に課題がある
  3. 給与計算のミスが多発している
給与計算アウトソーシング

2-1.担当者の急な退職や休職による業務停止のリスクがある

担当者の人事異動や長期休暇などにかかわらず、給与計算業務を継続的に安定稼働させたい場合には、アウトソーシングの導入がおすすめです。

中小企業の場合、担当者の急な休職や退職が発生すると、代替の人員や仕事を引き継ぐ人員を確保できず、給与計算業務自体がストップしてしまう場合があります。

アウトソーシングを導入すれば、契約中は専門スタッフが代行するため、属人化を防ぐことができます。また、給与計算を担当する社員を教育する必要もありません。

自社の情報セキュリティに懸念がある場合も、給与計算アウトソーシングであれば高いセキュリティ水準を誇るため、個人情報を扱う業務でも安心です。

2-2.給与計算業務関連のコスト削減に課題がある

給与計算業務関連のコスト削減を行いたい場合にも、アウトソーシングの導入によるメリットが期待できます。

代行会社によっては、電子化やシステム化により紙の保管や処理にかかるコストの大幅な削減が可能です。手入力を行っている、紙の給与明細書を発行しているなど、電子化が遅れている企業にとっては、業務の効率化も図れます。一方で、紙での発行を維持したい場合には、紙の給与明細書を発行するサービスを行っている代行業者もあります。

煩雑な給与計算業務をアウトソーシングすることによって、ペーパーレス化、DX化、残業時間の減少による人件費削減など、業務の最適化を行い、コストダウンを目指すことが可能です。

ただし、コストダウンが実現するかは、企業の状況や導入する業者によって様々ですので、十分な検討が必要です。

2-3.給与計算のミスが多発している

給与計算をミスなく行いたい場合は、給与計算アウトソーシングの導入がおすすめです。
特に、専門性のある人員を確保できていない、兼務などによる業務過多でミスが多発しているなど、人員不足により正確性が確保できていない企業の場合は、アウトソーシングを導入した方が良いでしょう。

給与計算は専門的な知識が無ければ負担のかかる業務ですが、給与計算アウトソーシングを導入すれば、専門のスタッフが迅速かつ柔軟に対応してくれます。正確性においても安心して任せられるでしょう。

ミスが発生すると、過去の記録を遡り修正を行うなど、リカバリーに時間がかかります。
また、給与計算に関する法改正や制度変更などが行われることも多く、最新情報をいち早く手に入れ、対応しなければなりません。例えば、法改正によって保険料や税額が変動すれば、給与計算にも反映する必要があります。

給与計算アウトソーシングを導入することで、給与計算に関わる業務のミスを軽減できる可能性があります。

3給与計算アウトソーシングを導入しない方が良い中小企業

下記のような企業は導入のメリットが少ないと考えられます。

  1. 社内に労務担当者がいる
  2. 独自の企業風土がある
  3. 制度の変更を検討している
給与計算アウトソーシング

3-1.社内に労務担当者がいる

社内に労務担当者がいる場合には、給与計算アウトソーシングを導入せず、内製化を進める方がおすすめです。

これは、給与計算と労務の関係が密接であり、どちらか一方を切り離すことが困難なためです。

給与計算業務のみをアウトソーシングすることで、社内に残る労務事務との齟齬が発生するなど、逆に代行業者とのコミュニケーションや調整に、時間と手間がかかる可能性があります。

社内の労務担当者が機能している場合には、社内で連携して給与計算業務を行うと良いでしょう。

3-2.独自の企業風土がある

他社にはない、独自の企業風土を持つ企業にも、給与計算アウトソーシングの導入はデメリットとなる可能性があります。

アウトソーシングを行う場合、導入時に業務フローの最適化が行われる場合が多くあります。独自の企業風土があると、そうした業務フローの最適化に向けた取り組みが定着しにくい傾向があります。

また、経営者の親族や古くからの社員など、特定の人物に特別な権限がある場合なども、アウトソーシングが上手くいかない場合があります。

独自の経営方法を維持したいという考えの企業は、アウトソーシングの導入には慎重になった方が良いでしょう。

3-3.制度の変更を検討している

既存の人事制度から新制度へ移行中の企業や、制度の変更を外部に委託したいと考えている企業は、給与計算アウトソーシングの導入がスムーズに進まない可能性があります。

このような場合、アウトソーシング先の業者が、新旧の人事制度を両方精査する必要がありますが、チェックには限界があり、不備が発生する可能性があるからです。

新しい制度を作成できたとしても、給与計算アウトソーシング業者との確認作業が煩雑になり、コミュニケーションコストがかかります。
また、既に制度の一部を移行完了している場合などは、アウトソーシングを導入したことにより、さらに変更が必要になるなど、二度手間になることもあるでしょう。

人事制度の変更を検討している場合、外注には慎重になった方が良いでしょう。

4【事業規模別】給与計算アウトソーシングと内製化の料金比較

給与計算アウトソーシング

給与計算を内製化した場合とアウトソーシングした場合の料金について、表に違いをまとめました。

前提条件:
従業員 50名程度
給与計算担当者 1名(給与計算業務の割合:業務全体の5割程度)

項目 内製化 アウトソーシング
1ヶ月当たりの料金 - 4~6万円程度
(従業員1人あたり1,000円前後)
担当者の人件費 12~15万円程度 不要
給与計算ソフトウェアの料金 1万5,000円~2万円程度 不要
合計 13万5,000円~17万円程度/月 4~6万円程度/月

従業員数や会社独自の賃金制度の有無、依頼する範囲などによって、アウトソーシングの金額は変わりますが、概ね従業員1人あたり1,000円前後に設定されます。従業員が50名程度の場合、1ヶ月当たり4万円~6万円が相場と言えるでしょう。

一方内製化した場合には、担当する従業員の人件費や、使用する給与計算ソフトウェアの料金がかかります。

従業員1名あたりの人件費を12~15万円程度(月の業務の半分が給与計算業務と想定)、給与計算ソフトウェアの月額使用料が1万5,000円~2万円程度とした場合、1ヶ月当たり13万5,000円~17万円程度が相場と言えるでしょう。
ただし、これはあくまでも概算で、給与計算担当者の人数や給与によって大きく変わります。

5給与計算をアウトソーシングした場合と内製化の違い

給与計算をアウトソーシングした場合と内製化した場合の違いは下記のとおりです。

  内製化 アウトソーシング
人員確保の難易度 高い 低い
給与計算担当者の教育 不要
コストダウン 難しい ある程度可能
担当者の負担 多い 少ない
既存給与計算システムの継続利用 代行業者によって異なる
業務効率化の実現可能性 中程度 高い
セキュリティ対策の充実度 企業毎に異なる 高い

業務の正確性や担当者の負担軽減などを重要視するのであれば、企業の信頼問題や従業員からの不満に繋がりやすい給与計算業務は、専門的知識を持った人材に任せるのが良いでしょう。

既存の給与計算システムを継続利用することにこだわらないのであれば、給与計算アウトソーシングの導入をおすすめします。

6中小企業が給与計算アウトソーシングを導入するときの注意点

中小企業が給与計算アウトソーシングを導入する場合、以下のようなポイントに注意が必要です。

  1. 自社の課題に合わせて依頼する業務内容を選別する
  2. 給与システムが変更になる可能性がある
  3. 自社のノウハウが蓄積されない
  4. 締め日から支給日までの対応時間が短くなる
給与計算アウトソーシング

6-1.自社の課題に合わせて依頼する業務内容を選別する

アウトソーシングを導入する場合、自社の課題に合わせて依頼する業務内容を選別することが大切です。

給与計算のほか、人事や労務業務に幅広く対応してくれる給与計算アウトソーシング会社もあるため、自社の課題や導入目的を明確にしておかないと、本来代行を必要としていない業務まで依頼し、余分なコストがかかってしまう場合があるためです。

アウトソーシング業者には、給与計算に関する業務をワンストップですべて依頼できる場合もありますが、業者によっては予算に合わせて部分的に依頼することも可能です。

一方で、アウトソーシングが必要な業務を依頼に含めておらず、後々追加で料金が発生してしまう場合もあるため注意が必要です。

給与計算アウトソーシングを検討する前に、自社の課題を把握しておきましょう。

6-2.給与システムが変更になる可能性がある

給与計算アウトソーシングを行う業者によっては、業者が指定する給与計算システムの導入が必要な場合があるため注意が必要です。

給与計算システムが変更となると、新システムに慣れるまでは自社で行う作業にも時間がかかる可能性があります。

例えば、業者によっては従業員の給与データを管理するための専用プラットフォームやデータベースがあるかもしれません。この場合、企業自体もそのシステムへの移行作業に一定の時間と労力を要するでしょう。

アウトソーシングの導入を検討する場合は、給与計算システムの変更が必要か確認しておくことが重要です。
代行業者によっては、既存の給与計算システムを継続して使用できる場合も多くあるので、業者を選ぶ基準の一つにしても良いかもしれません。

6-3.自社のノウハウが蓄積されない

給与計算全般をアウトソーシングする場合、自社にノウハウが蓄積されない場合があります。

給与計算全般を外注すると、給与計算に関する最新の知識を持つ従業員が社内に在籍していない状態になるためです。万が一、その状態で給与計算アウトソーシング業者を解約し、内製化しようとした場合、専門的知識を持つ担当者がおらず、安定して運用できるまで時間がかかる場合があります。

アウトソーシング先とやり取りをする社員にある程度の知識が蓄積される場合もありますが、専門の人材でないと内製化には不十分な可能性があります。

ただし、今後給与計算業務を再度内製化する予定がないのであれば、社内に専門知識を持った従業員がいなくても特に問題にならないでしょう。

6-4.自社の確認時間が短くなる

給与計算アウトソーシングを導入すると、給与計算業務の工程に代行業者が入ることにより、自社の確認時間が短くなります。

代行業者から納品されたデータに不明点や誤りがあったときに、確認や差し戻しが発生するなど、コミュニケーションに時間がかかるためです。

末締め翌10日払いなど、短い支払サイトで運用している企業はよりタイトなスケジュールになるため、特に注意が必要です。
さらに、休日を挟んだり大型連休があったりする場合、営業日が少なくなり、給与計算業務に使える日数が減るため、代行業者の作業日数を差し引くと自社の確認時間がより一層短くなります。自社の社員が給与計算業務を行う場合は、最悪の場合休日出勤をして対応することもできますが、アウトソーシング業者の場合、タイトすぎるスケジュールの対応や休日対応を断ったり、別料金を請求したりする場合もあります。
最悪の場合、従業員への給与支給が間に合わなくなるリスクもあるため、給与計算アウトソーシングを導入する際には、休日対応の可否や、期限に関するルールの整備や共有、事前確認を徹底することが大切です。

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7まとめ

今回の記事では、中小企業の方に向けて、給与計算アウトソーシングを導入するメリットのある企業や、導入を検討するときのポイント、導入する際の注意点などをご紹介しました。
業務の効率化とコスト削減を同時に達成するなど、予想以上の効果を発揮する場合もあります。
業務の属人化やコスト削減、電子化の促進やセキュリティ対策など、給与計算業務に課題や問題点を感じている場合には、アウトソーシングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

このコラムは、弊社が提携する社会保険労務士の監修を受けています

上村 美由紀先生

株式会社小林労務 代表取締役社長
社会保険労務士法人 小林労務 副代表
特定社会保険労務士 / キャリアコンサルタント / ハラスメント防止コンサルタント
上村 美由紀 先生

2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2016年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。