データ化業務/ スキャニング/ 2023.10.26 2024.04.16
領収書は原本が必要?なくした時の対処法や電子化のために必要な準備も解説
領収書の原本は、社内外を問わず日常的にやり取りが多く、取り扱いが煩雑になりがちです。そのため、業務効率化や保管にかかるコスト削減の観点から、「領収書のペーパーレス化を推進したい」と考える企業担当者も少なくありません。
結論から言うと、領収書のペーパーレス化を推進するためには原本の取り扱いについてよく理解したうえで、電子化を進めることが大切です。
この記事では「領収書の原本をどのように取り扱うべきか」と悩んでいる方に向けて、保管義務や紛失した場合の対処法を解説します。領収書を電子化するためのステップやおすすめのシステムもあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
領収書原本の保管期間は法律で定められている
領収書は、経費の支払いといった金銭の受け取りを証明する重要な書類です。税法上の「帳簿書類」として、領収書は原本の保存が義務づけられており、具体的な保管期間は事業形態によって異なります。
ここでは、法人と個人事業主の2パターンにおける領収書原本の保管期間について見ていきましょう。
法人の場合
法人の場合、領収書の原本は法人税の算出にあたって、どれくらいの経費があったかを証明するために必要です。保管期間は財務状況によって、7年と10年に分かれます。
基本的に7年保管
法人の領収書原本は法人税法に基づき、原則として7年間の保管が必要です。
なお、7年の起算日は領収書を受領した事業年度における、確定申告期限*1の翌日です。領収書の受領日や、発行日ではない点に注意しましょう。
*1 事業年度終了の翌日から原則2ヶ月
欠損金がある場合は10年保管
法人のうち、欠損金がある場合は、領収書の原本を10年間保管しておくよう定められています。欠損金の繰越控除は、過去10年以内に発生した損失に対して適用されるためです。
欠損金の繰越控除を利用すると、企業が過去の年度で損失を出した場合、損失金額を次の年度やその後の年度で得た利益から差し引けます。赤字の年度がある場合には欠損金の繰越控除を利用できるよう、領収書の保管期間を従来より延長しておきましょう。
参照:国税庁「帳簿書類等の保存期間」
参照:国税庁「欠損金繰越控除制度の概要」
個人事業主の場合
個人事業主の場合は所得税法に基づき、青色申告事業者か白色申告事業者かで領収書原本の保管期間が異なります。
たとえば、青色申告事業者は法人と同様に、確定申告期限の翌日から数えて7年間は保管が必要です。ただし、申告した前々年の所得が300万円以下の場合は、保存期間が5年間と短くなります。一方、白色申告事業者の場合、領収書原本の保管期間は5年間です。
なお、2023年10月1日に施行されたインボイス制度においては、青色・白色申告事業者の双方に対し、領収書を7年間保存するよう定めています。そのため、領収書の原本は「7年間の保管が必要」と認識しておけば間違いないでしょう。
領収書原本のコピー保存が原則認められない理由
実際の取引や支払いの証拠となる領収書は、原則としてコピー保存が認められません。ここでは、コピーされた領収書の有効性が認められない2つの理由を解説します。
- 二重請求ができてしまうため
- 改ざんのリスクがあるため
二重請求できてしまうため
領収書のコピーが認められないのは、二重請求を防ぐためです。経費精算でコピーの提出を認めてしまえば、二重請求になっていないかを確認する手間がかかります。
たとえば、コピーした領収書で請求されたとしましょう。それにもかかわらず、後日あらためて原本の領収書を提出されると、同じ取引について2回も経費精算できてしまいます。その際、精算のたびに過去の領収書と照らし合わせながら処理すると作業が膨大になり、現実的ではありません。
二重請求による資金繰りの悪化や事務処理のコストを防ぐためにも、領収書原本のコピーは認められていないのです。
改ざんのリスクがあるため
改ざんのリスクがある点も、領収書のコピーが認められない理由の一つです。コピーすると筆跡などが残らないため、改ざんを見抜くのが難しくなります。
たとえば、「1」と「4」、あるいは「3」と「8」といった数字は少し手を加えるだけで変えられるうえ、コピーすると痕跡はほぼ残りません。
税務調査の際に指摘されたり不信感を抱かれたりしないためにも、領収書は原本を保管することが大切です。
領収書の原本をなくしたときの対処法
ここでは、領収書の原本をなくしたときの対処法を4つ解説します。
- 領収書の再発行を依頼する
- レシートで代用する
- 証拠となる「改ざんできない書類」がないか確認する
- 出金伝票に記録する
領収書の再発行を依頼する
領収書の紛失に気がついたら、まずは発行元に再発行を依頼しましょう。購入先や支払先の事業者に連絡して事情を説明すれば、再発行に応じてもらえる可能性があります。
ただし、領収書の発行義務はあっても、再発行の義務はありません。再発行してもらえない場合は、次項以降に挙げる対処法を別途検討する必要があります。
レシートで代用する
領収書を紛失した場合、レシートによる代用もできます。通常、レシートからは取引情報を確認でき、一定の証明能力があると認められているためです。具体的には、以下の事項が印字されています。
- 購入した日時
- 購入した品目
- 店舗情報 など
発行元が一般小売や飲食店などで、かつ少額の支払いであれば、レシートを領収書の代用としても問題ありません。ただし、レシートには領収書のような宛名が記載されない分、経費なのか、私的な目的で購入したのかを明確に証明するのが難しい側面もあります。
そのため、支払いが高額の場合は可能な限り領収書を取得しておくほうが安心です。また、レシートは感熱紙であり熱や光に弱いため、印字が消えてしまわないように冷暗所で保管しましょう。
参照:国税庁「No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書」
証拠となる「改ざんできない書類」がないか確認する
以下のような取引の証拠となる書類も、領収書の代わりとして認められます。
- クレジットカードの明細書
- 銀行の振込明細書
- 通帳の記録 など
クレジットカードの明細書などが領収書として代用できる理由は、改ざんが難しいためです。支払先によっては、購入証明書や支払証明書を優良で発行してくれる場合もあります。
一つの書類では領収書の代わりとして不十分だと感じる場合は、上記のような証明書類を複数用意すると良いでしょう。
出金伝票に記録する
領収書を紛失して対処法に困ったときは、出金伝票に取引内容を記録する方法もあります。出金伝票とは交通費など領収書が発行されない支出の取引を記録する書類であり、領収書と同じような項目を記載すれば十分代用が可能です。
- 日付
- 支払先
- 勘定科目(取引内容のカテゴリー)
- 摘要(取引内容の詳細)
- 金額 など
ただし、領収書のほとんどを紛失し、出金伝票への記録を支払いの証明にしてしまうと税務調査での印象が悪くなります。出金伝票による領収書の代用は、あくまでも最終手段として覚えておきましょう。
領収書の保存は電子化がおすすめ
経費精算の業務効率化には、領収書の電子化がおすすめです。領収書の電子化とはデジタル形式による発行だけでなく、受領した領収書の電子データ保存も意味します。領収書の原本を電子化するメリットは、主に以下の4つです。
- 紛失リスクを減らせる
- 発行側は印紙税が不要になる
- 保管スペースを節約できる
- 検索しやすくアクセスが容易になる
2022年1月1日に改正された電子帳簿保存法では、スマートフォンで撮影する、あるいはスキャナーで読み取るなどによって、紙の領収書を電子データとして保存できると定めています。
これにより、領収書は従来どおり紙媒体のままファイリングして保管するか、電子化して保存するかを選べるようになりました。一方で、メールなど電子取引でやりとりした領収書は、電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」に該当し、電子データのまま保存しなければなりません。
なお、2023年12月31日までにやり取りした電子取引データについては宥恕措置が設けられ、紙に出力し保存する方法が認められています。しかし、2024年1月1日以降は宥恕措置が廃止され、電子取引データの紙保存はできません。
領収書を電子化することで経理の業務効率化を図りたい場合は、適切に発行や保存ができるよう、電子帳簿保存法への理解を深めておきましょう。
参照:国税庁「(令和6年1月1日からの取扱いに関するもの)パンフレット」
参照:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました~令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要~」③ 電子取引データ保存に関する主な改正事項
電子帳簿保存法の保存要件について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
領収書原本を電子化するために必要な準備
領収書の原本を電子化するためには、主に以下に挙げる5つの準備が必要です。
- 法的要件の確認と遵守
- 電子化の準備と計画
- セキュリティ対策とバックアップ戦略
- システムの選定と設定
- 領収書のスキャンとデータ整理
法的要件の確認と遵守
領収書の原本を電子化して保存するには、電子帳簿保存法が定める要件に従わなければなりません。たとえ領収書の原本を電子化しても法的要件を満たしていなければ、有効性は認められないためです。
たとえば、受領した領収書をスキャナ保存する際に、画像の解像度や検索機能の水準を満たせていないと罰則の対象になります。
青色申告の承認取り消しや追徴課税といった罰則を課せられないよう、法的要件の確認と遵守を徹底しましょう。
社内ルールや業務フローの見直し
領収書の電子化にともない、従来の社内ルールや業務フローを見直す必要があります。電子データの受け渡しや保存方法など、紙の領収書を取り扱う場合とは異なる作業が発生するためです。
たとえば、領収書をスマートフォンで撮影する場合「どのような写真でなければいけないのか」「経費処理を申請する流れはどうするのか」といった具体的なルールを決めます。また、電子化に関する知識を深めるために、教育プログラムの構築や実施も必要です。
電子化へ移行したあとも新しい運用体制に慣れるまでには時間がかかるため、導入時期は決算期を避け、余裕を持った移行スケジュールを組むと良いでしょう。
ネットワークセキュリティ対策の強化
領収書の電子化には、ネットワークセキュリティ対策の強化も大切になります。電子データをネットワーク上に保存する場合、不正アクセスやハッキングなどによってデータが盗まれたり、改ざんされたりするリスクが高まるためです。
具体的には、以下のような対策が必要になります。
- 暗号化
- アクセス制御
- 二要素認証 など
定期的にセキュリティ監査も実施し、安全性の維持と向上に努めてください。
管理システムの選定と導入
領収書の電子化では、自社の予算や運用体制に合った管理システムを導入しましょう。管理システムには自社開発とクラウドの2つがありますが、どちらも一長一短があるためです。
たとえば、クラウドはすでに構築されたシステムを利用するためにカスタマイズ性は低いものの、準備にかかる時間やコストが少ない傾向にあります。逆に、自社開発の場合は開発や運用に時間やコストがかかるものの、業務フローに合わせた柔軟なカスタマイズが可能です。
従来の管理方法から領収書の電子化へスムーズに移行するためにも、導入する管理システムは慎重に検討していきましょう。
領収書のスキャンとデータ整理
日々の業務内で領収書のスキャンとデータ整理を進める際は、人的リソースの確保が大切になります。領収書のスキャナ保存や電子取引データ保存などは、電子帳簿保存法の要件に沿う必要があるためです。
とくに紙の領収書が大量にある場合は、原本をスキャンする作業に多くの時間がかかります。また、スキャンした電子データは適切なフォーマットで整理し、検索しやすいように保存しなければなりません。
領収書のスキャンとデータ整理の業務負担を軽減したい場合は、スキャン代行業者へ依頼するのも良いでしょう。
領収書の原本保管におすすめの電子化システム5選
領収書の電子化システムを活用すれば、スマートフォンで撮影した領収書を自動でデータ化できるうえ、経費精算のミスも防ぎやすくなります。領収書の原本保管には、以下の電子化システムがおすすめです。
上記は料金プランをはじめ、突合点検やタイムスタンプの一括検証など特徴的な機能が異なります。電子化システムを選定する際は、トライアルを活用しながら各サービスをじっくりと比較・検討しましょう。
各システムの詳細について知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
領収書原本の取り扱いに関するよくある質問
最後に、領収書原本の取り扱いに関するよくある質問と回答を紹介します。
- 電子化したら領収書の原本は捨てても良い?
- 領収書はPDF化しても良い?
電子化したら領収書の原本は捨てても良い?
領収書の原本は、電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件を満たしていれば、破棄しても問題ありません。
電子帳簿保存法の改正によって、スキャンデータと原本が同等であるかといった最低限の確認をすれば、すぐに原本を破棄できるようになっています。
領収書はPDF化しても良い?
電子帳簿保存法の要件を満たしていれば、PDF化した領収書も法的に有効です。
WordやExcelなどで作成した領収書をPDF化して発行する場合は、「電子取引データ保存」の要件を満たす必要があります。ただし、送付先によっては電子化の対応が難しいケースも考えられるため、領収書をPDF化する際は送付先へ事前確認が必要です。
送付先の許可が得られない場合に備え、紙の領収書を発行・管理する体制も残しておくとよいでしょう。
また、紙で発行された領収書は、受領側の判断でPDF化も可能です。この場合は、「スキャナ保存」の要件を満たす必要があります。
いずれにおいても電子帳簿保存法が絡んでくるため、PDF化を進める際は保存要件をあらかじめ確認することが大切です。
領収書の原本を電子化する際は、電子帳簿保存法の各種要件を満たす必要があるため、不安がある場合は代行業者の利用がおすすめです。
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まとめ
領収書は原本の保存が義務づけられており、経費精算だけでなく管理にもコストがかかります。そこでおすすめなのが紛失リスクの低減や業務効率化が期待できる、領収書の電子化です。
なお、改正後の電子帳簿保存法は2022年1月1日からすでに適用されており、領収書を含めた文書管理を電子化する動きは今後も加速していくと予想されます。電子化システムやスキャン代行サービスをうまく利用しながら、領収書の電子化に向けて社内体制を整えていきましょう。